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「自分が映画を作ってもいいんだ」と思えるまで

レポート / 切通理作

『お前がセカイを殺したいなら』(フィルムアート社)や第24回サントリー学芸賞受賞作『宮崎駿の<世界>』(筑摩書房)などの著作で知られる映画評論家・切通理作の初監督作品『青春夜話 Amazing Place』が2017年12月2日より新宿K’s cinemaほか全国で順次公開される。
長年映画評論の世界で活躍してきた切通がなぜ作品を撮ることになったのか。その経緯と本作の見どころを本人が語る。

 

「自分騙し」という言葉が、最近頭の中をぐるぐる回っている。

12月2日からの東京、新宿ケイズシネマを皮切りに、全国で順次公開される『青春夜話 Amazing Place』は、私が生まれて初めて監督した映画である。
私が助監督経験も自主映画経験もないまま50歳を過ぎているということ、映画評論家(をメインとする文筆家)であるということ、制作費を出したのは自分であるということ。主にこの三つから、勇気があるだの無謀だのと言って頂くことがある。

この映画の制作過程をいま振り返ると、自分で自分を騙くらかしたとしか思えない。
「はじめは10分程度の短編を作るつもりで、それが長くなってしまったんです」などと公には発言しているが、かの宮崎駿監督の『となりのトトロ』や『紅の豚』だって、初めは短編映画の企画だったが、やっていく内に膨らんでしまったのだと聞く。
私の映画は実写だし、そんな巨匠のエピソードを引き合いに出すのは、畏れ多いにもほどがあるが、まったく頭をかすめなかったかと言えば、嘘になる。
長年映画批評をやってきて、「元が短い小説を長編にした方が、うまくいく映画が多い」という認識をもっていたというのもある。
不遜ついでに宮崎アニメの話題をもうひとつ出すならば、せいぜいが2泊3日ぐらいの出来事を長編映画にしていることが多い。わが『青春夜話』も一晩の話に絞って、その中に、現実だったら時を置いて少しずつ起こることを、刻一刻と流れる映画の時間(1シーン単位で言えばスクリーンを見るお客さんと同じ時間)と重ね合わせながら展開していくよう意識した。

お話の内容は「ボーイ・ミーツ・ガール」にして、若い男女が手を取り合って、薄闇から朝に向かって駆ける場面に至るまで、どんなことが起こればいいのか、考えた。
宮崎アニメは手を握る少年と少女がそれ以上の関係に行かないことが多いけれど、わが映画では、若さゆえ肉体関係が先に来てしまう若者たちが、あらためて手を握り合ったり、あらためてお互いを見て、語りかけることが出来るようになることで、自分の、自分たちの時間を取り戻す過程を描こうとした。それが「青春のやり直し」になればいいと思った。
私の、物書きとしてのトークイベントなどの中で余興としてひっそりと上映しようと考えていたのだが、映画館でかけて頂くことになったのは、撮影監督として頼んだ人が、やや後ずさり気味だったので、本気になってもらいたかったからだ。だから無謀にも撮影前から映画館に挨拶に行き、「出来たら見て下さい」とお願いした。
しかしそれも後から振り返れば、自分自身に覚悟を決めるための段階だったような気がする。べつに撮影監督が「映画館でかけるならやります」と言ったわけではないのだから。
最初は原作つきの短編だったが、友人でもある原作者が降りたため、オリジナルになったのだって、いまから考えれば、「自分に独自の面白い脚本など書けるわけがない」という臆病さを乗り越えるための、ひとつのプロセスだったような気すらする。それを友人に見抜かれたのかもしれない。「お前はお前の言葉で撮れ」と。

臆病な自分に、色んな口実を用意して、映画作りの当事者にいつの間にかさせてしまおうという「自分騙し」が無意識に作用したのだろう。
制作費の見積もりが100万を越えるたびに、妻に相談した。その都度、笑って許してくれたのも、夫がいつかは映画を作ることになるとわかっていたからだろう。
この原稿を書いているのは、公開の4日前だ。80数席で2週間のレイトショーというのは、1000人以上の人が来てくれなければ満席にならないということだ。
全国一斉公開のメジャー映画が、いかにすごい規模なのかということに、あらためて気付き、慄いている私だ。
ここまで自分を騙してきた男が、我に返る日が来るのか? さらに自分を騙し、未知の領域に踏みだし続けるのか?
自分の人生ながら、予測がつかない。

 

 


 

「青春夜話 Amazing Place」ポスタービジュアル

 

「青春夜話 Amazing Place」は、12月2日より東京・新宿K’s cinemaほか全国で順次公開。

プロフィール
切通理作きりどおし・りさく

1964年東京都生まれ。文化批評。和光大学卒。編集者を経て1993年『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』(宝島社/のちに増補版を洋泉社より刊行)を著わす。以後、著書『お前がセカイを殺したいなら』(フィルムアート社)『ある朝、セカイは死んでいた』(文藝春秋)『山田洋次の<世界>』(ちくま新書)『ポップカルチャー・若者の世紀』(廣済堂出版)『失恋論』(角川書店)ほか、映画、コミック、音楽、文学、社会問題をクロスオーバーした著作を多数刊行。最新刊『怪獣少年の<復讐> 70年代怪獣ブームの光と影』(洋泉社)。 映画作家研究として『宮崎駿の〈世界〉』(ちくま新書/のちに増補して文庫化)でサントリー学芸賞受賞。2013年12月より、日本映画批評メルマガ『映画の友よ』(夜間飛行)を配信中。それが昂じて初監督作品を作ってしまった。

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