「私の幽霊の件はその後どうなったの」
三井さんの家の玄関先で送り火を見ながら波子にメッセージを送った。迎え火も送り火も、たぶん8月に行う方が一般的だった。来月になると、夥しい数の幽霊があちらとこちらを行き来する。私の幽霊もそうなんだろうか。
「いってなかったっけ。まるみちゃんの幽霊ならうちでいっしょに暮してるよ」
「ええええ」
声が出た。三井さんと母に、私の幽霊の話を聞かせるのはややこしいことだった。
「職場でトラブルがあったらしくてちょっと出てくる」
うそをついて波子のマンションにいくと、部屋には波子の他に五人いた。
「あーーー。たしか、うさぎちゃんとしらべちゃんとかなでくんとかやこちゃんとさだこちゃんだよね。おばちゃんのことおぼえてる? みんなが小学生だったとき波子の家であそんだことあるんだけど」
一瞬、間があって、五人のなかのだれかが代表して、
「え?」
といった。
「まるみちゃん! みんなわたしの大学の友だちだよ。なにいってんの」
波子がちょっと照れたような怒ったような、やっぱり照れたような様子でいう。そのあと、五人の名前をまくしたてられたが、私は、ほら、おぼえてないからここにも書かない。
「それで私は?」
私は小さな声でいった。
そと。そと。
波子が身振りでこたえる。
部屋を出ると、すぐにわかった。マンションの前にあるブランコに、ひとがふたり座っている。その後ろ姿が見えた。ひとりが愛ちゃんで、もうひとりが私。
どうしようかな、と私は思って、
「おーーーい」
と4階の廊下から手を振ってみた。
私との遭遇が私にとってショックだったとしても、せめて私が明るくて元気そうな方がいいだろう。
愛ちゃんと私は振り返って私を見た。遠くて、顔のパーツひとつひとつまではわからないけど、あれは本当に私だ。私が母や三井さんくらいの歳になったらああなる。思ってたよりイケてる。
「そっちにいっていいーー?」
後ろの波子の部屋の扉から、きっと私の大声に対しての笑い声が聞こえてくる。わかる。私もたのしくなってきた。
愛ちゃんと私が同時にうなずいた。
私は、でも、マンションの廊下を早歩きしながら、自分の幽霊と対面するとかなんなんだろう、公園に着いたときには私が消えてくれてたらいちばん安心なのにな、と思っていた。