2017年12月に刊行された『貧しい出版社 政治と文学と紙の屑』は、同時代の小説家/活動家でありながら、出会うことのかなわなかった小林多喜二と埴谷雄高という二人を軸に、政治と文学の不思議なつながりを鮮やかに描き出す画期的な論考です。本書の著者、荒木優太さんがオススメする20冊をみなさんにご紹介いたします。
荒木さんによる新連載「日本のプラグマティズム」もぜひご一読ください。
1 立花隆『日本共産党の研究』全三巻 講談社 1983
戦前共産党を知るにはいまもってこれが最良の入門書。戦前のヤツらは色々とぶっ飛んでいて単順に面白い。だいたいの流れをおさえて、色んな文献にチャレンジだ。引用がときに正確じゃないのはご愛嬌。
2 『共同研究 転向1 』東洋文庫 2012
就活せずに大学院に進むとき。研究職を諦めて一般企業に就職するとき。概念を柔軟に捉えれば転向文学はいまなお更新されているのかもしれない。これがポケットサイズで読めるなんて、いまの学生はウラヤマ。
3 楜沢健『だからプロレタリア文学』 勉誠出版 2010
プロ文のポテンシャルをググッと引き上げた名著。いまだに「芸術的価値が乏しいよね」とかテキトーなこといってるバカは、くるみ割り人形で頭蓋骨でも割っておけ。脳漿ブシャー!(梨汁ブシャーのリズムで)
4 大澤聡『批評メディア論』 岩波書店 2015
真幸、信亮、そして聡……世は三つの大澤が覇権を求めて争い合う言論三国志時代に突入したッ! どの澤を選ぶかで君の命運が決する……オレは、聡にすべてを賭けるッ!!(プロ文の捉え方いいよ、133頁辺り)
5 荒井裕樹『隔離の文学』 書肆アルス 2011
文芸誌に載っているものだけが文学なのではない。テクストの位階制の底辺にあって、消毒しなければ外に持ち出せない傷つきやすい紙があったし、きっといまもある。難しければ『生きていく絵』から攻めても可。
6 副田賢二『〈獄中〉の文学史』 笠間書院 2016
多喜二と埴谷は図らずも獄中文学の一端を担うことになった。難点を挙げてもいいなら安すぎる。こういう労作が三千円越えずに買えてしまって大丈夫? 巻末の獄中言説年表を眺めてるだけで読みたいものがザックザク。
7 オーギュスト・ブランキ『天体による永遠』 岩波文庫 2012
ニーチェの永遠回帰が好きな奴は、こいつも抑えておくと友達にドヤ顔できるぞ。いつか君がブタ箱に入れられたときにこの本のことを思い出そう。きっと力になってくれるはずだ。獄中文学の白眉。
8 吉永和加『〈他者〉の逆説』 ナカニシヤ出版 2016
他者のことを考えることは大切だ。だけどそれは「他者」という言葉でもって自分の主張をゴリ押ししようとする連中に甘くなることを意味しない。レヴィナスとデリダと共に「他者の形而上学化」を回避する隘路を探す。
9 合田正人『フラグメンテ』 法政大学出版局 2015
オイオイ、いつもの版局より黒いぞ! しかもカバー下がなんかツルツルテカテカしてる……こんな豪華なんだから五千円は高くない、高くないぞ(←言いきかせているヤツ)。とりま、第五部の埴谷×レヴィナス論を。
10 田上孝一『環境と動物の倫理』 本の泉社 2017
『死霊』の「自同律の不快」は、蛸食ってキモー、という話から始まる。食ったものが食われたものを非難する幽霊たちの弾劾裁判の挿話にも連絡するが、果たして自分が食べてもいいものの倫理的条件とは何か?
11 デイヴィッド・ベネター『生まれてこない方が良かった―存在してしまうことの害悪』 すずさわ書店 2017
埴谷雄高は妻に堕胎を繰り返させた鬼畜エピソードでも有名。が、彼の反出生主義からすれば、言行一致といえなくもない? このクソみたいな世界に生れてくるなんて、ほんとうにほんとうにいやなものだねえ。
12 西尾維新『少女不十分』 講談社文庫 2015
嘘でなにが悪いか(by星野源)。近年は粗製乱造が激しく残念この上ない西尾維新だが、この一作を書いたことで全てが救われている。埴谷に教えてやれよ、嘘っぱちの物語は可哀想な女の子のために存在するんだって。
13 中村三春『新編 言葉の意志』 ひつじ書房 2011
たまに「ライバルは誰ですか?」と尋ねられるたびに「中村三春です」と答えるのだが、どうやら誰だか分かってないらしい。オーケー。とりあえずコレ、読んどこうぜ? 最終章は『党生活者』論である。
14 寺田寅彦『寺田寅彦セレクションⅠ』 講談社文芸文庫 2016
最悪買わなくてもいいので、エッセイ「浅草紙」だけは青空文庫にでもアクセスして読んでおこう。こういうものを書けるのが本当の思想家というのだ。寅彦 is 至高。
15 ゲオルグ・ジンメル『ジンメル・コレクション』 ちくま学芸文庫 1999
延々教授職につけず、私講師として頑張っていたドイツの在野研究者。『貧しい出版者』で新しく書き下ろした「つながり一元論」の元ネタは実はジンメルにある。私も彼みたいな立派な在野人になりたいものだ。
16 清水幾太郎『倫理学ノート』 講談社学術文庫 2000
完璧な学問的体系が完成したと思ったとき、その背後ではどんな「塵芥」が排出されて、それはどこで処理されているのだろう? 核武装論とか頭の痛いこといいながらも、こういう本を書けたのだから清水はエライ。
17 デイヴィッド・J・ハンド『「偶然」の統計学』 早川文庫 2017
多喜二と埴谷は同時代に偶然同じ地域にいた共産党員だった……うん、で? 自己批判と共に偶然の神秘化を戒めねばならない。偶然などカウント法次第でいくらでも。次に出す本『仮説的偶然文学論』の基本アイディア。
18 橘玲『「読まなくてもいい本」の読書案内』 筑摩書房 2015
タイトルと装丁のせいでかなり損をしてると思う。余り反発しないで手に取って欲しい。読みたい本しか見つからない嬉しい詐欺。『ドゥルーズなんて怖くない』ってタイトルにすればよかったのにね。
19 ベルナール・スティグレール『象徴の貧困』 新評論 2006
遊戯王のキラカードみたいな光り方だよね。訳注がとても見やすくて、しかもすごい勉強になる。本文が難しいのなら辞典のように訳注だけ読めばよい。ところで、シモンドンの翻訳ってまだ出ないのか?
20『草獅子』 双子のライオン堂 2016
本屋発の文芸誌。第二号は『しししし』という名で続刊中。なんでタイトルが変わったの?とか聞くな。人生色々あるのだ。私が連載している「柄谷行人と埴谷雄高」は、『貧しい出版者』のアナザー・ストーリー。